夏至。華正樓

夏至。
一年で一番、昼が長いのに、梅雨で晴天率が低く、太陽に見守られているのに、太陽を拝めない日でした。
矛盾と感じるのは視野が狭いからでしょうか、真理は雲上に顕れています。

鎌倉、長谷の華正樓で服部全志さんを偲ぶ会に同席させていただきました。
昨年7月14日に、全志さんが他界するまで、裏千家青年部でブロック長同士、という同志でした。

この日、関東一円はまさに暴風雨。
服部さんらしいなあと、読経のような雨音を聞く。

一歩でれば真横から吹き降りの雨に、雨コートは派手に翻り、裾はびしょ濡れ、足袋は搾れるほどしたたかに濡れ、またコートの下は蒸すこと蒸すこと、不快指数、この上なし。

この日、着ようと思っていたのは、浅葱の褝の無地に市松の夏帯、正絹での取り合わせ。
迷ってそのまま着ていくことにしました。

傘を煽られながら、せめて帰りも傘の原型を留めてくれないと大変なことになるなと、柄にしがみつきながら足下ばかり見て歩く。

一歩、一歩、一歩。
目的地への距離を測る唯一の「尺度」は歩幅。
尺度は正に、「在脚下」。
心の中で、服部さんに、「わかった、わかったから、助けてよ…」と苦笑しながら坂を上がる。

今日は稽古の日でもあり。
上野毛の稽古場で、コートを干しながら、長緒点前で、母と夫と三人、一碗を回して濃茶をいただく。
点前座から客座に回り、窓ガラスに吹き付ける雨を見ていると、茶室ごと高速道路を行く旅の、フロントガラスを見ているよう…
真東から吹き付ける珍しい風に
もがり笛がピュー、ピュー、鳴り
ときには、キャーと悲鳴に似た叫びを上げている。

上野毛で拾われて、奥山号に乗せてもらい、本当のフロントガラスを雨で洗いながら、第三京浜を走る。
七月のブロック暑気払いの計画を立てるうちに、無事、会場に到着。

初めての華正樓。
広い玄関で草履を脱いで畳敷きの廊下を進むと、京都の中村樓にいるようで、お家元や全国の仲間とご一緒した懇親会など思い出す。

呈茶席に通され、先輩や同輩に再会。
「且座」(菓子の名前)、とお菓子に諭されて、心を鎮めて座る。
心かよう、温かな一碗の薄茶に安堵し、同時に、新幹線のダイヤ乱れで小川前期委員長が来られなくなったと聞く。
夕暮れて雨足も風もだいぶおさまり、広い窓からは全志さんが修行した高野山を想わせる青い山に、白く靄がかかっている。

偲ぶ会では、縷々、思い出話を酌み交わしました。
途中、マイクを回され、ブロック長同士の本音を吐露した、夜中の電話の話などほんの少し…。

会がひらいたら、夜空も微笑んでいました。
服部さんらしいなと幾度も思う。
奥山号での帰りの第三京浜は滑走路。
シューティングスターのよう。

電車を乗り継ぎ、栗平駅に。
駅前に、見覚えある人影を見つけ、たっぷり重いシュウマイと肉まんとバッグを預け、雨草履を引きずりながら、散歩気分で報告しつつの家路。
夏至の日付が変わるころ、星霜軒に帰りつきました。

また彼を偲ぶ茶をひっそり星霜軒でもしたいなと話しています。
服部さん、今日をありがとう。
土産話を持ってきそうな、茶事の顔ぶれを思案しながら眠りにつきました。