裕美さんを送る茶事

裕美さんを送る茶事 2018.1.21

二年半、社中の仲間として親しんで来た
相楽裕美さんが仙台に帰ってしまう

そのことを告げられたのは11.28の
吉森の誕生日の夜でした
穏やかな心は吹き飛び
抗いながらもやがて放心状態で
眠れない夜を過ごしました

執着、という心持ちを久しぶりに味わい
般若心経を呟いたりして
清らかにさっぱりした
青空の気持ちで送り出さねばと
何度も自分に言い聞かせました

いつか帰る時が来ると知りながら
いまが永遠に続けと祈るように
一日一日をご一緒に照らし合い
輝く時間を
一生懸命に過ごして来ました
その心持ちこそ
幸せと呼ぶのでしょう

その日が来てほしくなくて
また同時には
ずっとずっと夢に描いていた光景でもある
この茶事の日を迎えてしまいました

露地を整え試しの蹲を使うと
本当に心が洗われました

寄り付きにはお家元の 雲無心
と南天の実を

雲無心にして岫を出づ…
また空を渡って新たな舞台を得る方へ

日日是光日
藪椿と白梅
私の金棒だった裕美さんを香合に
釜敷は寅年の伊勢の暦
金棒が示すは一月二十一日の文字

濃茶は同門を代表して
大畑宗恵さんが唐物点前を
三種の菓子はもちろん井上豪製
茶杓は無我
茶碗は あした

静寂が連座した皆の心を繋ぐように
凪の海としてひとつになれました

お点前を見ながら涙が止まらなくて
三人で回した濃茶が甘くて懐かしくて
喜怒哀楽を受け止め
感謝を表せるお茶が有り難くて
また涙が止まりませんでした

この二年
毎日のように会い
支度、荷造り、茶会、片付け、
支度、荷造り、茶会、片付け、
なんども繰り返し
毎日決まって交わす言葉は
「じゃ、またあした」だったねと

その二年半を
東京茶道物語として上下二巻の御朱印帳に
絵巻にしてくださいました
めくるめく光の日々が蘇りました

裕美さんは笑顔と率先垂範の鏡でした
社中からプレゼントの寄せ書きも
御朱印帳だというシンクロ…
みなそれぞれの思いと
思い遣りが綴られた赤い御朱印帳

私は裕美さんのトレードマークの千鳥を
京人参を抜いて象り
吉森との見開きいっぱいに
紅い千鳥を群れさせました

俳人は17文字に全てを込めねばなりません

魁(さきがけ)の一羽頼もし 群れ千鳥
ひかり句
霜柱さくさくさくさく またあした
ともひろ句

道縁は無窮ですから
またご一緒に茶の湯の海でむつみましょう
本当にありがとうございました
本当にありがとうございました

そしてこの茶事を契機にして
復帰してくださった内藤さん
昨夏にお母様を亡くされてすぐに
ご自身の病を知り
秋に手術されました

命を思うからでしょうか
いつも露地を掃除していると
不思議と必ず内藤さんが気になり
じっと治癒を願い待ちながら
我が家の柚子が実るのを眺め続けました
冬至になり柚子ひとつをお見舞いに
柚子湯にしてねとお渡ししたのに
ずっと玄関に飾ってくださっていたと聞き
吉森が花束を渡すときも
熱い涙が出ました
また心豊かな日々をご一緒にできる
何にも代えがたい悦びです

またこの茶事を境に
第二子のご出産と育児で
お休みに入る竹中さん
世界の空を飛ぶのはやめて
日月を数え命を育みながら
茶名を待つ幸せで大変な日々の始まり

二人の男子を育てて
いつか男子ユニットのお点前
叶えてくださいますように…
新しい命を思って明るい色の花束を贈呈

お二人の花束を
頼みに行ったのは二日前
花屋にある全ての花を見て
お二人の顔を思いながら
ひとつひとつの花と向き合い
立候補してきた花に
ではよろしく!と
思いと言葉を託しました
上手に伝えてくれたかな、、、

晴天の穏やかな日
社中の皆が集い
思い出を語らい
永すぎる茶事を過ごしました

準備から片付けまで
社中の皆さんが時間も心も手間もかけ
それぞれの役割を担いました

こんなに手をかけたい茶事が
こんなに手がかからずに進行してしまうのは
夢か魔法か幻なのか…

入門一年に満たない初心者の方も
さっと帛紗をつけ
ささっと割烹着をかけ
無言でどんどん働いています

私だけ取り残されたような気にさえなり
変化と成長の機会をくださった
昨年の幾多の行事に思いめぐらす

やはりそのほとんど全てに居てくれた
裕美さんに感謝が湧いて来ます