ご報告 第39回 星霜軒 月釜茶会『マリーアントワネット茶会』

第39回目になりました星霜軒月釜茶会
『マリーアントワネット茶会』を無事終えました

様々な見方をされ語られる王妃ですが、おかれた環境や立場を厭わず、一生懸命に主人公として生き抜いた姿は『大和撫子』に通じます

茶会の趣向を考える過程は、アントワネット妃と向き合う日々

花と咲き、愛に生き、家族や人民を思いやった、マリー自身の視点から見た暮らしはどんなものであったのか…自他一如の気持ちで過ごしました

受付後は2階の寄付に集合して、やまももサイダーで乾杯
寄付部屋は『パリオペラ座前』の想定で上演中のオペラ『昨非今是』の文字に、これからの物語を想像します

階段を下りながら、パリ市内の『ヴァンプとクリニャンクールの蚤の市』を通ります
実際に二つの蚤の市で購入した骨董を並べて見ました

絶対王制の王たる生き方をギャラリー化した、いわば『王族は暮らしは仕事』のベルサイユ宮殿
その内装は、異種の大理石をモザイクにして、柄に柄を合わせ、さらに金とガラスと鏡で乱反射させる目映い空間…
長時間居るとくたびれます

実際、宮殿は式典用のしつらいで、王家のプライベートは庭園の遥か向こうにあるグラン・トリアノンにありました

こちらは白壁やモノトーンだけの大理石の床など、『余白』や無地の『色かさね』の美があります

月釜は日曜日
休日なので鏡の間はお休み(笑)
トリアノンのイメージで、プライベート舞踏会にお招きしたつもりで、対流圏の立礼に
『日々是光日』を掛けました

お点前は社中きっての貴婦人、才色兼備のお二人
蛯名美鈴さんと、竹内さと子さん

茶箱の『雪』点前の『シンクロ点前』でお客様に一服を

それぞれ一回の稽古と、二人での一回のリハーサルのみで
目で見るワルツを奏でてくれました

フランス生地を使った、カルトナージュの三色の茶箱
薄器マカロン型の山中塗の三色に、こちらもフランス生地の長緒袋をそれぞれに誂えたもの

三色の茶箱はお点前された
竹内さと子さんのお手製です

袋は社中袋師の坪内宗佳さんの作

そこに、美鈴さんがオークションで競り落とした銀巻ショットグラスも巾筒に見立て使い…

茶箱は社中の美の共演
小さな宮殿の舞踏会です

 

お菓子はロココ様式の曲線の優美さ、ふくよかなフォルム、甘い色調、気高い上品さをイメージした、ピンクのおだまき製

銘はマリーアントワネットの故郷オーストリアでの読みで
『アントーニア』と名付けました

 

おりしも前夜は職場の方の披露宴だった菓匠、井上宗豪氏が華燭の祭典を思いながらの夜なべ仕事
中はホワイトチョコレート餡ながらしっかり和菓子の風味を保ちました

茶花はマリーアントワネットが好きだったとされる『じゃがいもの花』をシャンパングラスに一輪のみ

実は、ルイ16世夫婦は国内の飢饉を憂い、南米原産のじゃがいもを農作物として普及させようと様々に策を巡らせたそうです
地中海性気候では雨季が冬
小麦にかわり夏季の乾期にも育つ農作物が必要でした
当時、じゃがいもはヨーロッパになかなか受け入れられなかったそうです
毒があることと、種子でなく、種芋で増えることから、『性的不純がある』とされ、魔女裁判で実際にじゃがいもを火炙りにしたくらい…?

そこでアントワネットはじゃがいもの花を帽子に飾り、ルイはボタン穴に花を差して社交界に臨みました
ファッションリーダーである二人が好きな花は、瞬く間に貴族に流行り、各邸の庭にはじゃがいもが植えられ、それにともない芋も増えていきました

また王室農園にじゃがいもを植えて、やたらと厳しく警備しながら、夜は敢えて手薄にして
農園泥棒を誘発しながら、じゃがいもの美味しさが広がるように仕掛けたとも言われています

その機知とセンスは
解る人にしか解らない思慮深さを感じます

『パンが無ければケーキを食べればいいじゃない』も
実はアントワネットでなく、ルイ15世の娘、義理の叔母の台詞であり、実際の表現は『ケーキ』ではなく、パンの半額程度だった『ブリオッシュ』だったとも言われています

断頭台に立つ際に
執行人の足を踏んだ折りには
『わざとではないのです、ムッシュー』と言われたとは
執行人だった方の記述…

マリア・テレジアの娘として生まれ
大家族の中で愛情たっぷりに幼少期を過ごしたアントーニアは
時代の転換期に14歳(現在の中学2年生くらい)で単身、異国に嫁ぎ
自分の頭で考え王妃をまっとうしました

その足跡を辿るたびに
私は彼女への愛情が深まります

さて月釜に話を戻しますが
グラン・トリアノンの舞踏会のあとは、王妃の離宮、プチ・トリアノンへも足を伸ばしていただきましょう

元はルイ15世が愛人のポンパドール婦人のために作らせた
小さく麗しい宮殿プチ・トリアノン

ルイ16世の即位後になってから、『ベルサイユ宮殿は堅苦しく寛げない』という王妃にプレゼントされました

アントワネットはその庭に里村を造り家畜を飼い
作り込み過ぎない自然の美しさを楽しむ庭園を造りました

スモークツリーやバイカウツギに、みかんの花といった、私たちの庭や散歩道のお馴染みの花がたくさんあります

昨年、三度目のプチ・トリアノンを訪れてからは
庭木の植生からもさらに親しみが湧きました

彼女が自分の意思で造営したのは
この里村部分だけです
ルイ14世が35000人を投じて『治水』による絶対王制のシンボルとした噴水庭園に比べたら…
なんと簡素な侘び茶人の一壺天、露地のようなもの

30代で散ったアントワネットが
もし八十台まで生きていたら
どれ程の侘び数寄者になっていただろうかと惜しい気持ちになります

そんなアントワネットの庭に来た気分で、文字どおり足を崩して円座していただき
吉森製のグレープフルーツゼリーに、冷抹茶のお点て出しを

冷茶にてしつらいは小卓と水指のみ
風炉先屏風は光琳の瓢図

床に飾った木工の椅子と鍵は
もの作りが趣味だったルイ16世にちなみました
小さな赤いリンゴの香合を添えました

自然を好み農村に憧れ家畜を飼ったというアントワネット
四人の子供たちとのピクニックを再現しました

釣り花用の鎖に掛けた鳥籠には
リンツのリンドールを三色…

スイスにリンツが誕生したのはアントワネットより後年ですが
もし八十台までアントワネットが生きていたら
きっとリンツのチョコレートを愛しリンドールも召し上がられたことでしょう(笑)
という哀悼の意を込めて
アントワネットカラーのリンドールをお土産としました

フレアースカートやサマードレスでいらしてくださった皆様
気持ちを同じくして
星になった王妃と語らってくださり
ありがとうございました

また語らいましょう