星霜抄 ~猫は…~

星霜抄
  ~猫は…~

清少納言なら猫は黒く腹が白いのがよいというのでしょう

全身白猫のららさんは
夏場はガレージのタイルや叩きの上にぺっちゃんこに寝そべって
何度も息をしているか様子を見に行ってしまうほど怠そうでした

真夏に額と首に出来物ができ
お隣さんの真っ白いプードルさんも心配そうに見守ってくれていました

長雨のあと秋風が吹いて
急に元気をとりもどしたので
ほ。

この夏はららの秘密を知りました
もう長く『ららさん』と呼んで親しんで来た名前は
お隣の猫の名前だったのです

お隣は真っ白いプードルと
真っ白い猫も飼っているのです

二年ほど前でしょうか
隣の女の子がガレージにいる白い猫に向かって
『ららー!ららー!』
と呼び掛けていたので
すっかり『らら』というのかと思っていました

真っ白いプードルさんが数寄屋門越しにじーっとららさんを見つめていたので
奥さんとちょっと話をしていたら
『あ、ららは家の猫なんです』
と食い違いに気づきました

すでに巡る季節を共に過ごして
永い付き合いなので
こちらもすっかり『ららさん』が定着していましたし
確かに初めは反応悪かったのですが
最近は『らーらさん』と呼べばこちらを向いてくれますし

二人の白猫のららさんが住む栗平
それでいいのかなと思います

この夏は二人のららさんに寄り添い
白いワンピースを着続けました
洗い替えも買って
ずっとお揃いで暮らせました

白が好きだから
猫も白いのがすき

頭から尻尾まで真っ白で
耳の中と鼻先に
ほんのり桜いろを匂わせている
時々肉球を拝めればさらによい

猫は愛想が良すぎないのがよい
人に媚びず寂しがらず
独座して世の中を遠く見ているのがひときわ美しい

忙しくせず暇そうにしているのに
身繕いはやたら丁寧なのがよい

来たり来なかったり
気まぐれで不規則なのは
やきもきするけれどそれもよい

買い込んだ刺身を
翌朝に自分たちがトーストと一緒に食べる悔しさがたまらない

雨続きで四日も見ないと思えば
夜半に帰宅して門前で出会うと
咄嗟に謝る我が身が情けない

猫との付き合いには
執着を捨てる修行がいる

愛しているとか
必要だとか
言わぬが花の仲がよい

杖頭の雲水たる猫を引き留めず
猫との交わりは淡きこと水の如し
ただ我が身の内側に蓬莱を描く

夢まくらにのみ猫を抱いて
覚めた後にほのと残る
指先の毛並みの感触を懐かしみながら今日も我が髪を撫でる

ららさん
いつもありがとう