靖子抄 ~空を仰いで~

靖子抄
 ~空を仰いで~

令和4年8月14日(日)
学生茶道家の集いがあり
講演の依頼をいただき
母が戦時中の疎開体験など
『小学生の子供の目から見た戦争』
の記憶をお話しました

このひとつきは
アルバムを紐解いたり
地図で信州を辿ったり
疎開先から両親に宛てた葉書を
何度も何度も読み返して
当時の記憶を呼び覚ましました

私たち二人も
画像やスライドを準備しながら
母とともに戦争時を追体験しました

当日の朝は車で迎えに行き
早めに我が家でリハーサル

台本を見ず
終始目をつむったまま語る母
私は時間を計り
隣では語りに合わせて
吉森が画像の順序を整理して
着替えたらすぐ本番でした


昭和16年11月15日
変わり行く世の中の
時局を見据えた親族が
一年早く七五三のお祝いをしてくれました

銀座のエーワンでお食事会をして
誂えた着物で記念撮影しました



これは令和4年の今から数えて
ちょうど80年前の写真です

翌月、真珠湾攻撃があり
太平洋戦争開戦となりました
世の中がどんどん
変わって行きました

お兄ちゃんのランドセルに憧れ
約束していた真っ赤なランドセル

師走の市中を探し回った父親が
ようやく買って帰って来たのは
茶色で裏はボール紙を貼ったもの…
小さな三つずつの穴が開いた
豚の革でできていました

『赤いのって約束したのに…
こんなの…いやだぁ(涙)』

『ごめんな、ごめんな…』

お父さんに悪いなと思いながらも
涙を止めることができなかった

それが私の最初の戦争体験でした

……

この日、母は
新しい訪問着をおろしました
思うところの表れでしょうか

講演の一時間は
あっという間に過ぎました
質疑応答があると知らずにいました

またこんなにたくさんの質問が
学生さんから出るとも思いませんでした

たくさんの質問に答えるうち
母の中で何かがキラッと光りました

ギャラリービューの小さなたくさんの窓に写る
若くて美しい聡明なお顔が
小さく頷くたびに
母の中でまたキラッキラッと
鏡が反射するように輝くのを
少し斜め隣から
プリズムのようだとみとれていました

こんなにも直接対話できるとは…
改めてオンラインの有り難さを感じました

素晴らしい機会をいただき
家族一同感謝します

講演が終わっても
ひとしきりアルバムを見ながら
思い出談義を重ねました

その間も視聴してくださった方から
ひっきりなしに感想のメッセージが来て
有り難くて嬉しくて
その度に母に見せました

そこへ弟が
名古屋の土産を届けに来て
またひとしきり母と弟で
アルバムを見て語り
今日のニュースと照らして
戦争だけは始めちゃダメと
何があっても始めちゃダメと
いつもの言葉を繰り返しました

夜も更けてから
吉森ご飯をたくさん食べて
素晴らしいお月様を見ながら
車で送りました

一緒に空を眺める幸せ
一緒にご飯を頂く幸せ
ぐっすり眠る幸せ

今の安らぎは当たり前じゃない
先達が作って来た暮らしを
私たちは大切にして
また安らぎの種を蒔いて生きたい