薫風と呼ぶには激しい風が吹いている
別世界に通じる扉をそっと開いて
久しぶりに秘密の階段を上り
栗木メルヘンの森を歩く
十年歩いている緑道は
いつも新しくて
なぜか懐かしい
木漏れ日を纏う日は
必ず白を着て
宮沢賢治が教えてくれた
『ほんたうのしあわせ』色のドレスにする
風のギフトがそこにもここにも
大木が道をふさいでいても
小さく屈んで潜り抜ける
朴の葉には不思議な魔法がかかっていて
いつもどうしても素通りできない
箱根ウツギが満開だ
紅白につらつらと花を垂らす
藤の花の屑を踏み
野茨の花を分け
走り根を一つ一つ越えて行く
なんて楽しい困難でしょう
木漏れ日が金粉を散りばめ
木々が幾千の筋を落とす土の美しさは
緞子とも間道とも見える
目まぐるしく輝く緑道を抜けて
谷から風の吹き上げる広場へ出る
全身を風で洗い晒して
命の洗濯をした帰り道
昨日も明日もなく
ただ今日の
光と風を愛おしむ
暮らしはしごと
二人のくりひらいふは10周年