~星霜の夢物語~
     (遡り投稿です)
2023.4.24 半谷宗仁 炉の茶事

~星霜の夢物語~
     (遡り投稿です)
2023.4.24 半谷宗仁 炉の茶事
コロナ禍の中
オンライン稽古が盛んになるにつれ
それぞれが自宅に茶の湯空間を造り
稽古の度に室礼を凝らして
液晶画面から招き入れてくれるようになった

ワンルームに住む若者たちも
アマゾンで折り畳める畳を買い
アマゾンで炉風炉の柄杓を買い
自宅で濃茶を練り
好みの菓子を見繕う技を身につけた

どんな状況でも
やってみた者の前にだけ
次の扉が用意される…

我が師匠の口癖は
『お茶はやった者勝ち』
なんでも、やってみるに勝る
納得する結果はないと

教わるより深く
見るより甘く
聞くより痛く
結果が心身に沁み入る

実践の大切さ
自分の構想に素直に情熱を注ぐことでは
私の人生の大先輩たちが
社中にはたくさんいらっしゃる

お弟子さんは師匠です

世界中に建物を建てて来た半谷さん
駅もホテルも住宅も店舗も
何でも造れてしまう仁子女史の
世田谷の自宅は
空間まで四次元に造り出せるのかと
疑うほどの工夫が詰まっている

季節ごとに茶事に招かれるのは
ここ数年の私たちの密かなお楽しみ

また新たに点前座をこさえたと聞き
炉を塞ぐ前にと
四月も末にいそいそと出掛けた

緑濃きレモンの大樹は
いま満開の花でただならぬ芳香で
青くま号と私たちを迎えてくれた

入り口を入る前から映える景色に
茶人を返上して旅人に変身してしまう

寄付きのソファで木漏れ日を浴びながら
レモンの花茶に海馬を刺激してもらう
途端に南国の旅の風が
心と脳を吹き抜ける

この日はテラスでお膳を頂く
焼き豆腐と白ご飯のマリアージュは
伊賀の旅の記憶に重なる

会津出身、地球育ちの仁子風懐石は
献立も漆器も磁器も硝子も
祖国の好さを誇りながらも
過度のナショナリズムがなく
みな自然に取り合わされて
リゾート地でくつろぐ旅人たちのよう

お菓子は手製のずんだ餡たっぷり
レモンの葉に挟まれた
お米を衝いたお餅のまん丸さに
愛がある…

ここでは主も客も物も植物も
肩の力が抜けている
すなわちみんな主人公…

私たち二人が一番有り難いパターン
夕ざりでのお招き(笑)
『今日も茶の湯で日を暮らした』
そのことを実感させてくれる
刻々移り行く光のレビュー

自然光と空模様が常に見える家
二階は庵というよりCASAが似合う

一変して闇の深い席へ
この場面転換が好き
呼吸も脈もコントロールされてしまう

いつも仁子さんの
お点前の横顔に見惚れてしまう

その額から鼻筋、頬への陰影に
ギリシャ彫刻を思いだし
腕(かいな)で空を抱くときは
サモトラケのニケ像になって
翼をはためかせ
海と空の飛あわいに向かって
飛び立つ姿が重なって見える…

『雄々しさ』がそなわっている
闇に沈んだ富士釜から
ほのほのほのほのと
異世界の湯気が立ち上り
風炉先屏風の山水図から
波の音が聞こえてくる

ロンドを踊る長身の茶入
背中の真っ直ぐな漢かな
茶碗は道入か本阿弥空中か

トロリと熱い濃茶に
もしこれが夢だとしても
リアルな夢だと感心している

終わらないで欲しい日を
またひとつ重ねました
有り難う
有り難う