星霜抄


2024.4.11
数奇屋門の着工から6日目…
最大の悩み処だった柱がようやく立った

(『立った立った、クララが立った!』とアルプスの少女ハイジのように庭師は喜ぶ)

今は小さな鳥居のよう
潜って見てようやく少しの
存在を感じる

柱石の上にそっとトゥシューズで立ち初めるかのその姿は
なんともはかなげで健気…

妖精の世界への結界

4月5日から庭は毎日
杉山さんの独り言で賑やかです

山鳩は構わず頭上で鳴いていますがメジロたちは杉山さんが帰ってから現れます

白猫は生活圏に置かれた梯子や部材を迷惑そうに慎重に避けながら
それでも毎日、蹲の脇からじっと様子を眺めています
苔が育って来たので緑色の中の白い猫が絵になります

杉山さんが来ても逃げません
距離感は1.5メートルです
(かなり近い)

ここに出入りする人は
安全なことを知っているのです

茶室の沓抜石には
杉山さんと白猫さんが交互に座り
床の間をじっくり鑑賞していきます

稽古がなくても吉森が
毎日掛け物を替えて花を生け
香合も取り替えています

一昨日は大龍の言葉の一行物
昨日は灰屋紹益の和歌
今日は三好長慶の和歌…
昼下がりの小さな茶事と古筆鑑賞が愛しい毎日…

庭の師匠は仕事途中では決して茶室に上がらないので
香合を沓抜石近くまでお持ちします
今日は小さな蛙の染付

『写しですが、本歌も香合番付表で一番下から二番目くらいです(笑)』
というと
『番付に乗るだけで大したもんだ』
といかにも杉山さんらしい謙虚な感嘆符を洩らす

この人は本当にすごいと思う

お茶しすぎてついに茶菓子を切らしてしまった
私たちのおやつの、干し芋(笑)と栗しぼりでしたが
『ああ、美味しい…』
としみじみ云う
演技ならアカデミー賞ものです

ささやかなミニ上棟式に
ノンアルコールの日本酒を盃で
(これから脚立に登るので)

『いまやっと滑走路に出たところだなぁ。これから加速して、うまく飛べたら……、どこかの空港に着陸したいなあ』
(目的地は操縦士にも解らないってことかな?(笑))

サン・テグジュペリの世界です

星霜軒は今日ものんびり
暮れて行きます