小さな小さな命をひとつ

自然にかえらなくては…
しばらくそう思いながら過ごしていました

たくさんのことをしたり
はやくそれらをこなそうとしたり
いろんなことを一度に考えたり
たくさんの人の気持ちを考えたり
新しいものを作り出そうとしたり
よりよくやろうと考えたり…

そうした知の働きを求める前に
まず自然にかえらなくていけない
そう感じたまま
何日かを過ごしていました

その間に
小さな小さな命をひとつ
二人で見送りました…

小さな青いきれいなお魚
うちのベタさん

病気が治ることを祈りながら
薬浴している最中でした

気になりながらも
稽古の日で
ときどきこっそり様子を見にいきました

そして夜八時ころ
静かに旅立ちました

息をしていないのに気づいて
震えながら掻き抱くように掬いあげて
おやすみリーフに寝かせて

もしかしたら
もしかしたらと
息を吹き返すのを待って見つめながら
声も出せず息もできず
ただ涙が水槽の水面に輪を作り続けるのを
ぼやけた静止画の中で
そこだけが動画なのが不思議でした

花を手向け
大樹のように見えるだろう桜の枝を水槽にかかげ
マリア像に見守ってもらいながら
稽古を続け

みんなが帰った星霜軒で
ベタのくれた思い出を二人で語らい夜を明かしました

泣き腫らした眼
二重がふくらんだ眼で
お弔いの相談をして

懐紙で誂えた白い舟(棺)に桜の花とともに納め
黒めの服で
正午過ぎにお別れをしてから
裏庭の金木犀の根本に弔いました
墓標はなく
慶翁桜の一枝を差しました

有り難うの言葉しか出てきません
たくさんの気づき
喜び
感動をくれた
小さな小さな青い命

3月19日、お彼岸に旅立ったベタさん
あちらまで泳ぎつけますように
好物のお団子「ひかりベタ」を供えました

弔いを終えて
先祖に挨拶に霊園に行きました
帰りは
歩いて歩いて歩いて
頭を休めて
心を浄めて
眼を干して
塩気を抜いて

お日様を浴びて
風を浴びて
木漏れ日を浴びて
囀ずりを浴びて歩きました

鴬や
山鳩や
松籟や
篁や
子供たちのさんざめきや

全てが
慰めの読経のように
胸に深々と
染み込んできました

暮らしが仕事でした
大切な仕事から離れていました

私の感じている矛盾に気づいていて
小さな命が
大切なときを
いまとここを
優しく取り戻してくれました

昨年夏の月釜で
大冒険茶会の主役を演じた
青い小さなお魚は
星になるために彼岸へと泳いでいます

先祖にも先達にも
見守っていただきたいと願います

本当にかわいいお魚でした