森宗呑氏の庵をお訪ねしました

立冬となりましたが
忘れがたき晩秋の思い出を綴ります

急流のように流れた十月にも
心に写り色褪せぬ和みの時間がありました

かねてよりの夢でありました
大先輩茶人の森宗呑氏の庵をお訪ねしました
東京を縦断し四街道へ

まず硯に向かい墨を摩る静かな時間

墨の香りと色が湧くにつれ
自分の静かな心が顕れてきます

芳名録に向かい
来ましたよ、という気持ちを重ねて自分の名前を書いている

応接の飾り棚には各地の所縁の品々
あれこれと質問しながら
道具の次第を読み解くように拝見する
一番惹かれたのはパイプのコレクション
全て使っていたもの…
道具とは使命を持つモノ
しみじみ美しいと思う

暖かい善哉には白玉と大粒の栗
微かな気配のみで厨をする奥様
露地を通らせて貰える贅沢は
自分が手入れするようになるまで
味わい尽くせなかった茶味…

露地へのアプローチはシュロを透かして見る秋空でした

端整の植栽の影からは出くわすよに灯籠がこちらを覗き込んでいる
なぜか会釈している私…(笑)

使われることが平常なのだとわかる清らかな蹲に向かって水の輝きを見る

釜なりを聞きながら
ゆっくり席入りする嬉しさ
藁灰の奥に灯る炭の紅に
数えきれぬ手間隙の結晶を見て
美しいと、有難い、が同じ意味から来ていることを思い出したりする

熱く滾る濃茶の時
四人での語らいの薄茶の時

再び庭を巡り
秘密の花園も見せていただきました
吉森は山芍薬の鉢をもらって笑顔!

植栽をひとつひとつ、指差し確認しながら見て回り
炭小屋という男のアトリエも見学 

風炉の名残に初めてこの世界に入ることが叶いました

『茶事なんてしませんよ。千葉にドライブに来た帰りに一服差し上げるまでのこと、それだけです。』
との念押しは私たちへの気遣いに他ならない

帰りは外国要人移動の首都高速閉鎖
夜空の下で大渋滞のテールランプの
赤い大河の一滴となる…

それでも私の目は
藁灰の奥の炭火の紅を見ていました

感謝しかありません
優しさに
ご縁に
この日に
お茶に…

忘れたくない日の記憶
よすがをとどめておきます
ありがとうございます