亥の月 くりひらいふ

亥の月は駿足で駆けていく

炉を開いた途端にそれは起こる
『一年』という壺の底にある栓を
引っこ抜いたように
轟音を立て渦巻きながら
毎日が奈落に吸いこまれていく…

毎晩心地よい疲労感に引き込まれ
子どものようにコトリと寝落ちし
新しい日の中にポコリと生まれ出る

迷いも拘りも躊躇もなく
封筒を糊でとめるように
昨日は読み返せないでいるけれど

文化の日に社中の炉開きが叶った✨
翌日は首都大茶道部のみやこ鳥茶会

翌週は真壺の茶会を鎌倉で
大玉送りよろしく葉茶壺を廻し
頬を紅潮させる客人の笑顔は
薄紅葉する楓に重なった

翌週は社中の茶事
亭主役と趣好の相談を重ね
その世界に没入して
道具も懐石も組み立てる

真っ白な灰になれる心地よい疲れ
ところがすぐに炭をつがれ
風にも煽られ休む暇はなし

今週末は鎌倉での二日間の茶事
今年ならではの
遠来の客人を迎える喜びは
その日が近づくと重責となる

今日は親子三人で星霜軒に籠り
茶事に向けた打ち合わせ勉強会
クリームシチューを挟み
打ち合わせは夜半まで続いた

手鑑を広げ
古の天皇の手の動きを感じる
そのひとときは時が止まり
静けさと安らぎが降りてくる

くりひらいふ

今夜は冷たい雨ですが
先日の散歩の風景を…

冬のページを開いた栗平
毎日見ている薄の穂が
今日は不意に冬らしく変わっている
猫の毛のような艶やかな光沢は失せ
ふわふわのモヘアになり
白く軽やかになっている

柿の木も軽やかに
木の葉も果実も振り落として
さっぱりとすっぴんで佇んでいる

空はコントラストを深め
ヒメジョオンは小紫の針のような花びらを水平に伸ばし
烏瓜は紅さと艶を増し
蔓は白く細く細く…

世界が揃って水気を減らし
枯れて涸れて渇れていく

冬の潔さが痛いけれど好き
冬生まれの二人だからか
冬に潔よく逝った
互いの父達を思い出すからか

山羊も白さを増して
首輪の青が目に沁みた
山羊の仕事は暮らし…
山羊先生に見習う日々