さようなら今年の金木犀

さようなら今年の金木犀
夜の闇のなかからも
お日様色の甘い香りを投げ掛けてくれてありがとう
二階の窓からも香りを楽しませてくれました
優しい気持ちになれました
あなたのお陰で何度も深呼吸して
空を仰いで背中をうんと伸ばしました
三日間降り続いた
寒い雨台風が去ったあとは
仰ぎ見る枝にお日様色がなくて
どこにもあの甘やかな香りが探せなくて…
青空の下にいるのに
泣きそうになりました
でも足下にはふかふかの絨毯があり
植木鉢も石畳も屋根にも
あらら庭草履の裏にまで…(笑)
小さな可愛い花模様を施して
また慰めてくれてありがとう
お日様色の小さな小さなクルス
キラキラ光る煌めきを
模様に描き留めたようですね
小花柄の星霜軒で一日稽古に籠り
明日はバケツにいっぱいの花の屑を集めて
また来年を楽しみにしながら
樹とともに生きましょう
優しくて
潔すぎる貴方の生き方
雨も風も怨むことなく
役目を終えてほっとしたかのように
樹は静かに深い緑に落ち着いている
この町に金木犀が多いことを
誇らしく想った日
2020.10.10