星霜抄 ~令和四年 節分 立春~

星霜抄
 ~令和四年 節分 立春~

一年に四度ある節分のうち
春の節分が追儺の行事として
今も残るのは実感による所…
人が自然の一部であることを
強く感じる

節分の数日前から
日に日に空気が美味しくなってきた
水をたくさん含んでいて
蒸留水の澄んだ味から
日毎にミネラルを含むような
味と香りのある空気になった

朝に夕に
マスクを外して口をパクパクさせ
道すがら空気を味わってきた

立春になり今日の空気は一段と
柔らかくなり
瑞々しさもさることながら
鼻腔にも喉にもソフトタッチになり
シフォンのドレスを着た春の女神に
次の角で逢えそうな気配がする

師匠の稽古に花を差し入れ
椿は光源氏
紅梅は紅千鳥

この日の師匠は
江戸小紋にお気に入りの梅の帯
成瀬優氏に染めさせた
ターコイズブルーの帯締め…
気分がよいことが取り合わせで解る

お福の面を見ていたら
大好きだった亡き女先生方の
笑顔と言の葉が胸にこだました

近年珍しい吉森の洋服での点前を
次役で控えの姿勢で
八畳の遠くから眺める

最近の師匠は問わず語り
松永耳庵老の家に行ったとき
庭師とそのお孫ちゃんとともに
みかんを採った話や

宗保先生に連れられて
河野一郎氏の別荘の茶席披きで
お点前したときの話は
19歳のときのこととか

伊賀焼の破れ袋は
『意外と軽いのよ』とか
晩年の五島慶太氏と茶会で同席した
際の印象やエピソードなど…

琵琶法師の語りを聞くような
目の前で人物が動いているような
不思議なリアル感を漂わせる

先人たちの言霊に引き寄せられてか
帰りに歩いて五島美術館へ
閉館までの一時間
慶太氏のもてなしに酔う

三つの長次郎に二つの光悦
三つの井戸茶碗
西湖の茶壺

太閤利休道安宗瓦遠州…の
ツイートを聞きながら
それらを床に
語らった数寄茶会を偲ぶ

美術館を出たら十年後だったりして
と恐れながら夕映に聳える樹木に挨拶する

五島美術館から並びで数分の
上野毛幼稚園に通ったころから
すごい大木だったけれど
あれから50年経ったのだものね
保存指定樹木の首飾りはいつからだろう

五島家の隣地が平地になり
横からの姿を初めて見る
ぽっかり線路の向こうの家並まで
西日を浴びているのを見遥かす
…診療所が建つらしい

角のサンドイッチ屋で小腹を満たす
アンクルサムさんも長い店で
高校生くらいからよくお世話になった
BLTサンドとアボカドツナサンド
店は貸しきり
かつ開け放し…寒い(笑)

以前はぶっきらぼうでちょっと
怖かった女性オーナーと
『この町も変わって行くね』
と談笑し
『昔の上野毛駅は長閑で良かったね…』
なんて母と全く同じ言葉に驚く

帰宅してクリームシチューを食べる
なぜか吉森は節分にクリームシチューを作る
何年も前からfacebookが記録している
『寒いと作りたくなるみたい』と
黒舞茸のたっぷり入った卵焼きと
食卓歳時記を創刊したい🙂

お弟子さまに続き薄茶をお願いして
お相伴に預かりに入席する
いただいた虎屋の季節の富士
赤富士で一服…
昨日の師匠の幸せを私も追体験(笑)

夜はオンライン講座で集い
翌日は麹町の光庵稽古
蔓延防止でリモートに切り替え多し
また続き薄茶でお相伴する(笑)
幸せです

春の隣は冬の極み
希望は絶望の隣に生まれる
夜明け前が一番暗い

当たり前のことに毎回驚く
日々新たに生きてます

暮らしは仕事
仕事は暮らし