星霜抄 ~桜満開の頃~

星霜抄
 ~桜満開の頃~

靖子母から如月の頃に譲られた
染めの夜桜の帯…

仕舞い込まずに日々絞めつつ
桜の花を待っていました

さくらは待った分だけ
嬉しく余韻も深まります

黒地に描かれた桜をようく見ると
蕊に小さく明るい緑色…
素晴らしく自然に描かれた幹には
ほんのり金暈しの花弁が重なり
目を凝らしたり離れたりするたげで
動いて見えます

夜桜の下を歩きながら見る動画の景色を再現しているよう

着物は動く絵画…
身につけた人の所作に合わせて
光の具合や立体感が千変万化し
目を凝らし見とれてしまいます

今日は平面に広げて繁々鑑賞

暗闇の部分にもほんのうっすらと
浮かび上がる微かな桜が描かれている!

この帯を描いた絵師その人と
いま共に夜桜を見ている心地がいたします

帯は折り返された裏まで
丁寧に描かれていて
人目に触れずとも花を咲かせている桜そのもののよう

私が絞めて着潰すには惜しい…

いとおしんで絞めたり
儚さを惜しんだり
桜を愛でる心そのもの似たる
着物から現れる精霊との語らい

 母譲り
   染め帯に咲く夜桜は
     眺めるも佳し
       成りきるも佳し

 さくらさくら
   人の心に咲く花を
     誰に見せよか
       ひとり散らそか