東西訪問記 ~大徳寺にて~

~大徳寺にて~

徳禅時護持会の総会講演会のために上洛
「利休自刃事件の真相」を拝聴した後
雨の聚光院にて利休居士の墓所を遥拝する

国宝障壁画の瀟湘八景と
千住博氏のコバルトブルーの滝‥‥
心身を清水で祓われる
た三人だけでの拝観は茶事の静かさ
重要文化材の縁側の軋む音も澄んで聞こえる

かつて聚光院の別院で
千住博の滝の絵に囲まれながら
寛海老師と座禅したこと
その後の野点ピクニックに老師を招いて
お日様の下で語らったことを思いだす

金毛閣も大徳寺の石畳も
何度も何度も見た景色の筈ながら
十代二十代三十代四十代五十代‥‥
見ている自分の変化が見える

夕方からは佐竹さんの竹茂楼に移り
徳禅寺の記念茶会と懇親会へ
唐津尽くしの展観席と薄茶席で
三角の洲浜形に淡いアースカラーと白の
斑古唐津の茶碗と再会して
話しかける
「あらご機嫌よう!京都にいらしたの?」
「あ、どうもその節はご厄介に‥茶巾で拭きにくそうでしたね」
「いえこちらの修練不足です。京都で活躍して、次はお茶を飲ませてね」
なんて会話した気になる

古い道具ほど確実に私の寿命を超えて
未来の茶会へ旅をする
だから私が生きてる限り
出逢いと別れと再会を繰り返す‥‥
縁の深い友人と同じ

了庵和尚の計らいで
夫婦別の席になり
古いワインを汲みながら
新しいご縁の手応えを知る
(運転手なので人様に「汲む」だけ)

泉田玉堂老師と同卓になり
夫は毎朝(雪隠で🤭)ご著書を愛読していると報告しましたら
大亀老師の小僧だった時代の裏話や
宗易さんという兄弟子のことなど
満面の笑みで語ってくださる
微塵も憂いのない自然の笑顔が
その晩の満月のように
私の心を明るく照らした

生形貴重先生(講演会講師)とも同席になり
二年半前、天正19年の一月と閏一月に
のめり込み過ぎて
左手に大火傷を追った話をして
気にかかっていながら誰にも言えず抱えていた正月の利休書状の解釈について
お考えを伺ってみて
その時以来の心の澱が少し薄れた

丁寧な美濃吉さんの料理をいただく
美しい佐竹ファミリーの面々に
お逢いできて嬉しい

心の親戚のような八王子さんや
粟田焼の安田さんに再会となり
茶の湯はリアル・ズーム・アプリかと思う

青熊号で真っ暗な鷹峯に上り着き
お部屋で帯を解いたら
バルコニーから満月と鷹峯‥‥
あ、これってたしか
花札の月の原画の中にいま居るのね

古に入り込む躙り口が
そこら中にある京都
呼吸するたび百年遡る
なるべく「今」を見ないで
心泳がせたい