~都鳥たちの記~

2023.3.4~改め3.11(時差投稿)

東京都立大学茶道研究会
令和5年卒業茶会の記録

三年ぶりにお客様を招いての卒業茶会でした
ノウハウも伝統も引き継ぎが薄れ
また一からのスタートでしたが
お人を招く喜びはひとしおの様子

たくさんのOBたちが予定してくれ
再会を楽しみにしていました

また社中からも学生たちへの応援の気持ちで
大勢が予約してくれていました
期待に胸をときめかせていた私たち…

しかし前日の深夜になって…
まさかの無期延期になりました

翌朝、連絡が行き届かなかった
唯一の人……庭師の杉山氏が
水屋見舞いの菓子を携えて
恕庵の前に一人ポツンと立ち
私のスマホに連絡して見えました

あわてて一番近い学生に連絡し
駆けつけてもらう間に支度して
私たちも車で向かいました

到着すると杉山氏は作業着に着替えて
『偶然』車に積んであったからと
青竹を持ち出し
朽ちて動かなくなっていた鹿威しを
さっさと修繕してしまいました

蹲の海が清められ
水が流れるようになると
鶯がやってきて
まだ拙い鳴き声で楽しませてくれました

大学院を卒業する学生も駆けつけてくれ
五人だけの静かな縁側茶話会になり
失意と安堵の深い味のする
コンビニのカツ丼と親子丼を頬張りました

ヒタキや鶯が歌い上げる春の露地で
椿や枝の花を探して
蹲や塵穴を飾り心を洗いました

ポツリポツリと語らって
不思議に湧いてできた休日を味わいました

『今日が延期になって良かったこともあったでしょ。これで卒業茶会では音がするようになったしね。延期したのも、私が来ちゃったのも、少しは意味があったね』

と笑って片付ける杉山氏…
後光がさしていました
かっこよすぎる庭の師匠に合掌

(一週間後)

なんとか翌週へ移行し開催されましたが
開催規模は当初から半減ですが
それゆえ無理していらしてくださった方には
ゆっくりして頂けたようです

私たちは三月に二つの出張事業をかかえ
四日間の不在を取り返すべく
土日の稽古は最早ずらすことは不可能で
残念のがら土曜の稽古を終えてから
車で駆けつけるのが精一杯…

それでも時間を伸ばして席を設け
釣り釜の煮えを絶やさず待ってくれ
ゆったり迎えてくれた真心には
胸が熱くなりました

春の宵
街灯に照らし出される桜花の早咲きを見上げ
満開ではないがゆえに静かに
密やかで深い情感を湛える
夜の恕庵に初めてにじり入りました

テーマはディズニーシーのアトラクション
『シンドバッドストーリーブック・ヴォヤッジ』
(検索して動画を参照)

人生は冒険
どんなときも『心のコンパス』に従うことが大事だと、若き主人公たちの思いが随所に室礼となり顕れています

寄り付きは如庵写しの小間
軸は『南向見北斗』
まさに心のコンパスを失わない決意
モダンに入れた花に
先日教えた日向水木
木の場所を後輩に伝承して欲しい…

本席に渡る露地は漆黒となり
闇から鹿威しが響く幽玄の世界となりました

『把手共行』の軸に
卒業証書の筒に生けた桜花

伝統の旅箪笥にアラビアンナイトな取合せ
(毎年学生が旅箪笥を稽古するので、社中もつられて所望する人ありで、星霜軒では春の御棚と思われている?(笑)🤭)

琵琶床にはアンティーク旅行鞄に
卒論完成の文字と各自の思い出の品々

熱い薄茶を頂き終えて
たばこ盆かな?という箱を開けると
折り紙の菓子器に干菓子が盛られ
もう一服どうぞという趣向

稽古から慌ただしく駆けつけて
闇と静けさと鹿威しの音と
湯気と熱いお茶を頂けた

お茶を続けていて本当に良かったと思う

彼らもこの先、それぞれの人生で
輝いたり疲れたり頑張ったりした時にも

幾度も幾度も
繰り返し思う気持ちと
この至福の時間を
味わえますよう祈りました

後日に道具や着物を返しに来た男子とも
床の間で記念写真

お疲れ様
おめでとう
ストーリーブックを
ありがとう