ハルジオンさん

名もない花…
そんな花はないんだっ!!
…すぐムキになる父でした
私が生まれて間もない頃まで
生物の教師をしていた父
元(はじめ)という自分の名前を
家族以外の知人にはみな
あえてゲンさんと呼ばせていたのは
遺伝子への憧憬と畏怖からなのかな
今日のゲストは
ハルジオンさん
春の紫苑(しおん)でハルジオン
観賞用に輸入されて日本に来て
きっと土や水が性に合ったのね
すっかり根付いて広がって
いまは自分の意思で
咲く場所を決め
命を咲かせて幾星霜…
いいね
素敵だね
勝手に自立しているから
咲いたかどうだか誰も気にしない
子孫繁栄も進化の選択も
主人公として自らの道を歩んできた
邪魔だなあと感じた人が言い出して
何時の間にか浸透してしまった言葉
『雑草』という別名もいまは持つ
せめて『野草』と表現したい
昔ヨーロッパの人が連れてきた
可憐な淡く明るい小花…
きっと好きになるだろうって
昔の日本人を喜ばせようとして
はるばる海を渡って来た子
野に出る前は
花瓶や植木鉢や
花壇に棲んでいたのね
いまはもっと自由に暮らしてる
環境を選ばず咲く強さ健気さ
しなやかな生き方を、人呼んで
『大和なでしこ』と言うのでしたね
この子もいまや立派な
大和なでしこ
大和もいやま令和ですから
長いこと一緒に暮らして来たんです
農園に上がる階段の脇に
ひとむらのハルジオンの集落がある
ひときわ濃いピンクを持つ
この子を手折って来た
久しぶりに花瓶に入り
ちょっと驚き顔のハルジオンさん
ピンクの睫毛がぱちくりと
ロングラスティングのマスカラみたい
なるほど生けて見ると
ピンクのドレスに白い襟の
ヨーロッパの女の子の絵を思い出す
今日をありがとう