2020.05.10 和敬清寂日記 ~母の日に~

2020.05.10 和敬清寂日記
~母の日に~
年頭のスケジュールでは
鎌倉の恵観山荘の月釜でした
『国母の茶会』
母も来てくれる予定でしたが
『実母の日』となりました
午前中にリモート稽古があり
私だけ車で上野毛にお迎えに…
床の間には軸がかかり
花が入れてありました
部屋の空気が清浄で
軽い驚きと感動を覚えました
私が85歳になれたとして
こんな風に暮らせるだろうか…
帰ると床の間には
宗旦居士の善の偈が掛かり
唐物写の籠と
花台が用意されている
今朝咲いた一初が切られ
他の花たちと水あげされている
母が卓上に置かれた茶書や
落款辞典にかぶりついている間に
景文筆の風炉先に朝鮮風炉
高麗の水指を 
まだ見せていないものを…と
唐物盆を菓子器にして
唐物青貝棗に茶を盛り
好みの赤楽と萩茶碗
そうなると茶杓は甫竹…
水をしたたかに打った
木漏れ日の露地
主客ともに語らいつ
手を貸しながら歩いたり見上げたり
耳が遠い母に届けと
青嵐に負けじと
ざんぶりざんぶりと水をかけ
笑われるほど盛大に
水琴窟を鳴らして
席入りはもちろん貴人口
『お花をお願いいたします』
花所望にたっぷりの時間をかけ
師匠の投げ入れを
久しぶりに近くで拝見
花つもりの所作
投げ入れの手の形…
最初に手にとる花
次にとるだろう花を
予測しながら見ている
私の鼓動は賑やかです
三種でとめて
すっきりして
一度これでよし
という目でしっかり見てから
今日の庭の花を見捨てられず
ちょっと笑ってから
あとの二種も入れてあげる
このあたりは
三人兄弟を育てた母茶人ならではか…
一初がゆらりと喘いだときに
手ではなく別の花で支えて
そうっと撫で上げてから
それを根本に収めると
花同士が支え合うように立ち上がり
少し向かい合ったまま
静かに止まりました
ああそうか
いつもそうやって
兄弟喧嘩を仲裁して
仲良く手を取り合うように
いなして来たのね
あとから割り込んでばかりの
次女の自分を思い出して苦笑して
普段着のまま
薄茶のみ
日が傾くまで
不時の茶席となりました
拝見の棗と茶杓が
戻ってくるべくもなく
間もなく日没か
盛り上がっている様子を
遠くから一枚だけ
 母あれば
   今日も母の日
      暮るるまで