星霜抄  ~寒山と拾得~

星霜抄
  ~寒山と拾得~
夕方から灯火の茶事のある昼下がり

門前を掃いていると
パタパタパタパタッ
背後からと走り寄る
たくさんで小さそうな足音たち

振り返ると予想通り栗っ子たち
黄色いランドセルカバーが二つ三つ

来たーーーっ❗

胸ときめく喜び✨
の反面…
今日は時間がない

愛想なく遣り過ごすには惜しすぎる待ちに待った遭遇
もう『邂逅』と呼びたい程の相手なのだが

私『(ニコッ)こんにちは』

🌰🌰っ子たち
『こんにちはーっ❗』
『こんにちはーっ❗』

🌰『わたしたちこの家、大好きです❗』
(おお、主語が複数になったのか
栗木台小学校の子供たちの間で星霜軒ファンクラブができつつあるのか?)

私『ありがとう~☺️』
思いきりの笑顔をアピールしてからは、黙々と下を向きながら箒を忙しく動かして忙しさを醸して見る…
🌰っ子
『お掃除ですか?』

私『はい、そうです❗お客さんが見える日だから頑張ってます』

いつもの🌰っこ
『ふうん、忙しいのか』

隣にいた🌰っこ
『私もお掃除手伝います❗』

私『本当に~?嬉しい✨』

隣にいた🌰っこ
『うちに箒とちり取りあります❗持ってきて手伝います❗』
(と誇らしげ)

いつもの🌰っこ
目をぱちくりしてから
『……、うち…、箒とちり取り、無いかも知れません…、引っ越しの時にたくさん捨てました、マンションだから要らないって…』

ほう、🌰っこちゃんのおうちはマンションらしい
いままでこちらの暮らしばかり見せて来たが、初めて彼女の暮らしに会話が及んだ瞬間✨
私『ああ、掃除の道具はうちのを使えばいいのよ✨今度、是非手伝ってくださいね』

二人
『はーい❗』(キラキラ笑顔)
『私は持ってきます✨』

箒とちり取りを持っていることが“誇らしい”子
持っていないかも知れないことに“動揺する”子

何気ない私の一言から
二つの小さなハートは
全く別の波動を広げていく…

そうなのだ
“役に立つ道具を所持していること”は子供心にも誇りなのだ

分かる
茶道具も同じ
着物でも調味料でもハサミでも
そして武器でも同じだろう

誰の為であれ
“役に立つ”と解ったときは世界が明るくなるような気がする
もちろん『人の役に立つ』ことが嬉しいのだがそれだけではないような気がする

『道具の命を生かせる』からだろうか

人間と道具が寄り添って来た歴史は長い
物を頼り、物に助けられながら、人はまた物を産み出し、育み、愛情を注ぎ、大切にしてきた

物の命を輝かすことができると
自分の命にも光が跳ね返ってくる
どうやらこれは本能…

人間が備えている自然
私『おうちでお掃除手伝っていいか聞いてみてね、やり方もいうから、みんなで一生懸命にお掃除したら、あとでお茶を飲みましょう✨』

🌰っこたち
『はい、手伝います❗』
私『じゃ、今日は解散っ❗』

🌰っこたち
『さようならーっ❗』

パタパタパタパタパタパタッ
遠くから再び
『さようならーっ❗』
私『さようならーっ❗』

こんにちはとさようならを
元気よく交わせる町にいる幸せ
訪ねてくれる客をもてる幸せ

一人になって
マスクを外し
思いきり深呼吸した

もしかしたら私は
寒山と拾得の子供時代を見ているのも知れない

栗平は天台山
暮らしは仕事
お茶は禅