星霜抄  ~稽古けいこケイコ~

星霜抄
  ~稽古けいこケイコ~

割り稽古、自主稽古、奥傳稽古…
稽古にいろいろあるけれど
2020年からは『対面稽古』と
『リモート稽古』という言葉が新たな用語になった星霜軒

性質が異なるからと
最初は曜日や時間帯を分けていましたが
リモートと対面も
結局はどの道マンツーマンの時間制

吉森と私で
二つの炉と
二台のパソコンを道場に

各自の個室(炉またはパソコン)に時間割りを与え
目一杯の稽古予定が入った週末…

よくスケジュールを見ないと
お相手が自宅で待ちぼうけになりますが
あらかじめ科目も決まっていますし
対面、リモートの別なく
お弟子さんが支度のほとんどをしてくださるようになりました

どちらかと言うと…
私たちが時間制で
『稽古の訓練を受けている』
ような気持ちさえして来て

すると高校時代の
懐かしくも切なく哀しい
柔道部時代の合宿を思い出します

黒帯の上から
赤い紐を絞めたら『元立ち』

時間単位で相手を次々変えながら
元立ちだけは繰り返し連続で
乱取りを繰り返す
サディスティックな修行でした…

もちろん好きではありません
恐ろしくて嫌でしたが…
なぜかそこから逃れようとはしなかったあの頃、、、(理解不能)

自分にさえ負けたくなかった
勝ち気な“前世の話”です(笑)

同期の屈強な男子さえ
タイムキーパーをする私に
乱取りしながら虚ろな目で
『時間…短めにしてぇ…お願いしますぅ』
と訴えて来たっけ

合宿の後半には
顧問の先生がリポビタンDを配る
これが出たら戦慄するのが上級生
無邪気に喜ぶのが一年生…

まさに荊蕀林(けいきょくりん)の
衲僧家(のうそうげ)

なにゆえこんな記憶が甦ったかといえば
本日の床の間は『紅炉一點雪』
紅と白のコントラスト

焔と雪の対比があまりに美しく
つい好きになってしまう一行だが

燃え盛る炉の火中に舞い込む
一片の雪❄️
最初にイメージしたときは
自分自身を置き換えたのは
実は炉でなく、雪の方でした!💦

一瞬後には無…
リポビタンDが切れた時の
明日のジョーの世界

もし私が高校で武道でなく
“禅”に出逢っていたら
私の青春はどうだったのだろう

(いや今となっては青春はどうでもよいのだが、いまの私はどうなっていたんだろう)

黒帯でなく碧巌録を携えて
それでも手帳に誰かの写真を
忍ばせて日々を送ったのだろうか
(↑まさに要らない妄想…降りしきる雪❄️の如し(笑))

朝一番は重ね茶碗を見ていて
以前なら大勢さまへの濃茶の振る舞いを想定したけれど
いまは二碗でお二人に各服に練るイメージをしながら拝見…

午後は台子を組み立て
木材と竹の軋みを
リアルに心地よく聴く

行の乱れはやはり乱取りに通じる…
裾の乱れを直すたびに
つい私も道着を思い出して
襟を直してしまう

茶碗荘を終えた男子の膝が
立ち上がり様にバキッ❗と鳴ると
ビクッとしてしまう私
両膝の靭帯を切った当時は
蕀の道を涼しく無傷で出てくることがイメージできなかっただろう

稽古が終わり日が暮れて
真っ赤に燃えた炉の炭も弱り
釜を上げて助炭を掛けたら
茶室はまた
シーンと静かなお堂になった

パソコンは平らに畳まれ
テーブルに並べたアクリル板は
白壁の前に並べば
存在しないように大人しい

ようやく普段着の星霜軒に戻った

かるかんで一服して
どこにも傷がない自分を確認した

あるのはただ安堵の気持ちと
心地よい…空腹感!

昨晩、茶友親子にふるまった
リンゴとチキンのカレーの残りを
体に染み込ませる

お茶を飲みながら
先ほどそれぞれが歩いてきた道のり(稽古のエピソード)を二人で披露し合う

暮らしは仕事
暮らしは修行
暮らしは…

いまの私には燃える炉も
一片の雪も
暮らしの道具組

 古を顧みつれば久方の
    光の矢は射る
       青き春風