星霜抄  ~飛蝗の上家~

庭師の手土産の
照葉と水仙が来た翌日に気付いた
飛蝗(バッタ)が玄関に住み着いた

寒くて行き場なく
少しでも暖かな場所を探している
家の壁につかまり
内側からの僅かな暖気を
細い足で感じているのか

いまは傘立てに住んでいる
陶器の傘立ての口回りが
ほんの少し反り返る中に頭を入れて…

バッタの為に懐紙で上家を造り
そっとかけてやると
気に入ったか一昼夜もそこに留まる

外出前に地面からの冷気を遮るため
ビニール傘を立て掛けておくと
外出の間に傘のヒダの中に移動していた
ビニールは暖かいらしい

今度は傘立てごと上家をかけた
今夜はさらに少し暖かに過ごせると
よいのだけれど

夏の間は世界が緑色だった
ジャンプして飛び付いて来ないと
君を見つけられなかったのに
今は翡翠色の全身は目立ち過ぎる…
枯れ葉で造ったコートを着せてあげたい

一晩に何度も
上家の隙間から覗いてしまう
その度に小さな茶色い目と
私の目が合う気がする

乗り越えて欲しい…
人間どもも寒がっている今夜を

生きとしいけるものみな
越冬は冒険

みんなみんな
暖かにしてお過ごしください
おやすみなさい